電子書籍派必見、紙の本が記憶に残る理由とは？

デジタル技術の進化によって、電子書籍の市場は年々拡大しています。しかし、それでも紙の本は根強い人気を誇ります。その理由のひとつが「記憶に残りやすいこと」。実際、多くの読者が「紙のほうが読んだ内容をよく覚えている」と感じており、教育現場や研究分野でも紙媒体が一定の支持を受け続けています。

電子書籍は携帯性、検索性、保存性に優れ、一方で紙の本は目に優しく、読書体験が直感的であることが特徴です。反面、電子書籍は読書中の通知や誘惑に弱く、紙の本はかさばり、保管場所を取るという欠点もあります。両者には明確な長所短所があり、使い分けが重要です。

ノルウェーの研究では、紙の本を読んだ被験者のほうが、電子書籍を読んだ被験者よりも、物語の構造や順序を正確に記憶していたという結果が出ています。これは、ページをめくるという動作や紙の質感が、脳に「読みの体験」として深く刻まれるためと考えられています。

紙の本は手に取ったときの重み、紙の感触、インクの匂いなど、五感に訴える特徴があります。これが安心感を生み出し、読書をより集中した体験にしてくれます。また、目で読んだ情報とページ数、見開きのレイアウトなどの物理的記憶がリンクしやすく、記憶の引き出しを助けます。

紙媒体は視覚だけでなく触覚にも働きかけるため、読書そのものに深みが生まれます。しおりを挟んだり、書き込みをしたりする行為は、読書の「能動性」を高め、理解と記憶を強化します。読んだページを物理的に戻ることも、電子書籍に比べて直感的で効率的です。

スウェーデンやスペインの研究では、紙で読書を行った学生のほうが、理解力テストでより高いスコアを記録する傾向がありました。これは「深い読み」に必要な集中力と、紙媒体が持つ構造的情報（ページ構成や章立て）へのアクセスのしやすさが影響しているとされています。

電子書籍の大きな利点は、いつでもどこでも読書が可能な点です。数千冊の本を一台の端末に収納できるため、通勤や旅行にも最適です。また、ハイライトや辞書機能、検索機能により、情報へのアクセスが迅速になります。

ただし、画面越しの読書は目の疲労を招きやすく、通知などによって集中力が削がれることもあります。また、スクロールによる読書は「どこを読んでいるか」の空間的な認識がしづらく、記憶の定着に不利になることが研究でも指摘されています。

利便性は集中力の敵になる場合もあります。たとえば、スマホでの読書は数分おきにSNSやメールの通知が入り、読書の流れが途切れることも。その点、紙の本は読書に没入するための「デジタル・デトックス」の役割も果たします。

自己啓発書やビジネス書のように「情報」を重視するジャンルは電子書籍でも十分効果的です。一方で、文学作品や学術書など「深い理解」が求められるジャンルは、紙の本の方が適しているとされています。

時間をかけてゆっくり読み込むことで、内容が記憶に定着しやすくなります。スキミングや速読が流行していますが、深い学習には「反復」と「熟考」が欠かせません。紙の本はそのための道具として非常に優れています。

どちらか一方に偏るのではなく、目的に応じて紙と電子を使い分けるのが理想です。たとえば、通勤時は電子書籍、自宅での集中読書には紙の本といったように、生活に合わせた選択が有効です。

デジタル化が進む中で、出版業界も紙と電子のハイブリッド展開が主流になりつつあります。読者が自身の読書目的やスタイルに合った形式を選べる時代だからこそ、「読書体験の質」を重視する視点が求められています。

「どちらが良いか」ではなく「自分にとって最適な方法は何か」を考えることが大切です。読書の目的や内容、場所に応じて、記憶に残る読書体験を選んでいきましょう。